ビール製造の工程で、発酵は5℃~15℃、貯蔵は0℃~3℃の低温を保つことが必要条件であり、また製氷設備等が高価なことから、建物に対してもできる限りの断熱性能が要求される。
幸いにして、この工程の各部屋は完全な形で残されており、構造体や室内の形状を調べることができ、いかにしてその断熱性能を高めるかを追求した様々な工夫を知ることができた。
各室への出入口は日本食品化工(株)時代に、開放された大きな開口に改造されており、当初設置されていた断熱扉も現在は撤去されている。この状況では、当時よりかなり断熱効果が低いと思われるが、今回の調査では、外気温34℃の場合、1楷貯蔵庫では21℃であった。断熱扉が完備していた当初ではさらに室温を低く押さえることが可能であったと推定できる。
現在の建築技術の粋を集めても、電気やその他機械なしの建物で真夏にこの快適温度を実現することは至難の技といえよう。この驚くべき断熱効果は以下によって、なしとげられていると思われる。
(1)屋上スラブが中空の2重~3重アーチ耐火床となっていること 。
(2)
上記以外の屋上スラブ上には断熱用大鋸屑が厚く設置されていること。
外部に面した壁は2重~5重の壁となっており、中空の断熱空気層をもっていること。
(4)
レンガ壁体にコルク(厚さ40mm)が張り付けてあること。
(5)
西面が半地下となっていること。
(6)
壁および床スラブが厚いこと。
※(1)の2重~3重アーチ耐火床と(3)の2重~5重の璧は、他の類例が極めて少なく、当該建物は、この点でも貴重であり、建築的にもすばらしい技術を駆使したものといえる。
参考文献
旧カブトビール工場構造診断調査(名古屋大学・半田市共同調査)報告書