第2章 カブトビール復刻プロジェクト

(1)カブトビール復刻の趣旨

カブトビールは、半田の地ビールではありません。ましてや営利目的の商品でもありません。
カブトビールは明治の時代の半田の起業家たちにより、当時の4大ビールメーカーの東京のエビス・大阪のアサヒ・横浜のキリン・北海道のサッポロに次ぐ5番目のビールメーカーとして半田のカブトが生産されました。
郷土の先人達の「ものづくりの心意気と起業家精神」をより実感いただくために、カブトビールを復刻いたしました。したがって、人気となる美味しい地ビールを作るのではなく、味・製法・ラベルなどの意匠までも当時のまま忠実に再現し復刻させることに大きな意義を持って、明治・大正・昭和そして現代へと時代を超えて半田のまちを語り、次の世代へ伝えるために作られたのが、復刻カブトビールなのです。

(2)復刻カブトビール 味へのこだわり

私たちがカブトビールを復刻する際、多くの文献を調べて、製造方法の確認をし、味の想像をふくらませました。その結果、およそ次のようなものと分かり、大変時間のかかる作業ではありますが、これと同じ手順で製造しております。
また、2度の試飲会には、実際に飲んだことのある方を招待して、評価をしていただきました。さて、皆さんはどのような味を想像しますか?
※電力事情が悪く、優れた断熱材もない時代に低温が維持できるように工夫をされた、半田赤レンガ建物も、見所のひとつです。

原料 麦芽
発芽 麦芽を発芽させる
煮沸 副原料と共に煮沸する
発酵 冷暗所にて約10日間
熟成 0℃で、約3ヶ月
瓶詰め
出荷

当時のビールは、文献には次のように記録されています。

・(現在のものより発酵前のエキスが高く黒ビール位あること、また発酵終了後のエキスが相当残り、たんぱく質やデキストリンが多いことなどから)味は重厚で、甘味の残るビールであったと思われる。

・色の濃い赤褐色をした苦味の強いビールであったと思われる。

▲「ASAHI100」より

・当時のビールはコップ一杯飲むとかなり酔い、泡なども飴みたいに口のまわりについて、手につくとべとべとするくらいだった。

・我国の「ラガア」麦酒は「ウォルト」の含糖量13%~13.5、発酵度71~75にして色沢鮮麗芳香優美内外人の賞賛を博するに足れり。(明治36年第5回内国勧業博覧会の審査報告より)

・麦汁(ウォルト)糖度が高かったから、できたビールの色も濃く赤褐色をしていた。

・当時のラガービールは、現在のグリーンを基調としたコハク色に対して赤系統の赤褐色であった。(赤ビールと呼ばれていた)

・明治・大正時代のビールは、このほか味に二つの特色があった。一つは炭酸ガスが少ないためやや気の抜けた味で清涼感が欠けていたこと、他の一つは苦味が強いこと。

・大正末年以降、ビールの味は今までのしつこさを脱して、飲みやすく、杯を重ねるに適したものとなり、色も赤味を帯びた褐色から淡い琥珀色なり、炭酸ガスも増えて心地よい刺激が喉をくすぐった。

▲「ビールと日本人」より

・底面発酵:獨逸に行はる而して発酵は二段を為す発酵室に於ける主要発酵及び貯蔵庫に於ける第二発酵之れなり

・麦酒貯蔵日子は多少変更すれども二三ヶ月とす。

▲今井田「麦酒工業一般」の講義より

・半田町堀崎に醸造所が新設され、大阪で仕込釜を注文し、原料の大麦を福岡、空瓶を東京からそれぞれ調達して、明治22年5月には瓶詰め3,000本を初出荷するに至った。

▲半田市史より

(3)復刻カブトビール 復刻までの道

〔1〕明治カブトビールの復刻

カブトビールの復刻は、多くの方の希望に背中を押されるようにして実現しました。まず、旧カブトビール工場である半田赤レンガ建物を一般公開して以来、年を追うごとに、
・赤レンガ建物のすばらしさを理解する人が増加
・カブトビールを知る人が増加
・建物の活用を期待する人が増加していると感じてきました。
特に最近は、昔のカブトビールをこの赤レンガ建物の中で一度飲んでみたいという多くの声を耳にしてきました。
さらに、2005年には愛知県で万博が開催され、知多半島常滑沖で中部空港が開港し、そして半田市で赤煉瓦ネットワーク全国大会が2005年9月10日、11日に開催されました。
このような風を背に受けて、私たち赤煉瓦倶楽部半田の中から、このビッグイベント目白押しの年に半田赤レンガ建物の原点であり、象徴でもある「カブトビール」を復刻させ、さらに赤レンガ建物の認知度を高めたいという希望が高まり、いよいよ実現へ向けて、本格的に動き始めました。

【明治カブトビール復刻の経緯】

2004年 1月24日 2004年度新春合宿にて「復刻プラン」承認
2004年 2月 製造委託先検討、関係各所に対して「カブトビール」文献収集の依頼
2004年 3月24日 製造委託先決定 (知多麦酒(株))
2004年 5月17日 知多麦酒(株)と品質の方向性確認及び試作について検討
文献の内容に基づき、
・色は赤褐色、味は濃く、ホップが強く、熟成は3ケ月間」をできる限り忠実に反映する。
・びんの容量は330mlとし、当時に近い形のびんを選定する。
・ラベルは丸三麦酒(株)半田の四角形型とする。
こととした。
2004年 6月5日 赤レンガ建物特別公開時に当時のカブトビール飲酒経験者現る。
2004年 7月23日 第一回試作品の仕込み(3ヶ月間熟成、10月下旬~試飲可能)
2004年 10月31日 第一回試飲会実施
評価結果
・もう少し黒味を消して赤い色調に
・味は心持甘味を強くする
・炭酸は弱めでよい
2004年 11月 第二回目試作品の仕込み(3ヶ月間熟成、2月~試飲可能)
2005年 2月3日 第2回目試飲会実施(一回目と比較し、味が決定)
2005年 3月 本格生産開始 (完成 2005.5月末)
2005年 6月4日〜5日 3,000本販売(第4回半田赤レンガ建物特別公開にて)

〔2〕大正カブトビールの復刻

復刻 明治カブトビールは順調に人気を上げ、その人気と共に半田赤レンガ建物は耐震補強工事を行う決定がされ、旧カブトビール工場が、2015年「半田赤レンガ建物」として常時公開でリニューアルオープンしました。 この建物の目玉として、常時 明治期の生カブトビールが飲めましたが、来場者の中には、違う味のビールも飲みたいとの要望もあり、赤煉瓦倶楽部半田で新たに大正期のカブトビールの開発が期待された。
そして、半田赤レンガ建物の「リニューアル1周年感謝祭」を期に、大正期のクラッシックラガー 大正カブトビールが復刻された。

【大正カブトビール復刻の経緯】

2014年 大正時代のカブトビールの分析表を入手。復刻することを決定。
2015年 1月 知多麦酒と打ち合わせ。できる限り忠実に分析表に基づき復刻することを要請。
2015年 11月 第1回試飲会実施。評価として、文献等のイメージと少し距離感ありの声が多く、分析表に基づき出来る限り忠実に復刻するために専門家の指導を仰ぐことを決定。試飲会の直後、あいち産業技術総合センター食品工業技術センター醗酵バイオ技術室を訪問。快諾を得る。
2016年 1月 知多麦酒、赤煉瓦倶楽部半田、県食品工業技術センター先生にて、最終試飲会に向けて方向性を確認。考えられる2タイプの試作品を作ることに決定。
2016年 3月 第2回試飲会実施。 復刻大正カブトビールの品質決定。
2016年 7月 半田赤レンガ建物の「リニューアル1周年感謝祭」にて復刻大正カブトビール 販売開始。

(4)品質へのこだわり

〔1〕復刻明治カブトビールの品質

多くの文献から、味に関する記述・製造方法を収集  ※『ASAHI100年史、「ビールと日本人」

使用原料………ドイツ産モルト、ホップ(ドイツ産ホップ主体に、一部香付けでアメリカ産使用)
醸造方法………下面発酵/ドイツで軟水用として開発された酵母として開発。冬場・低温発酵(10℃)・0℃で90日間貯蔵。本格ラガービール
明治カブトビールの特徴………ワインに近い味わいのビール
①アルコール 7%
②ホップが現在の2倍(苦味の強いビール)
③麦汁糖度が高く、赤褐色をしていた
④炭酸が現在のビールより▲30% 本格ドイツビール(赤ビール)

〔2〕復刻大正カブトビールの品質

大正3年頃の分析表が見つかった!

愛知県食品工業技術センターの指導のもと出来る限り忠実に復刻。また、ラベル(地紋・メダル)も忠実に復刻。
使用原料………ドイツ産モルト・ホップ
大正カブトビールの特徴………麦の味いが香ばしく、古き良き時代を思わせるクラシックラガー
①アルコール 5%
②外観:淡帯褐色透明(淡い琥珀色)
③麦汁糖度が高く、芳醇な香味
④現在のビールよりは炭酸が少ない